よろしく、ビロードモウズイカ。
2021年10月7日(木)
私と母の休日が重なった時、母が50パーセントの確率で言う言葉がある。
「どっか散歩行く?」
私の母は、家では基本的にずっとテレビを見ている。この前だって、私が無限列車編を見ていたら、鬼滅アンチの母にチャンネルを変えられた。人様の結婚のニュースが気になるらしい。なんだよ、と思いつつ、自分の娘(私の姉)と同じくらいの歳の人が結婚の件で世間から注目されて、行く末が心配なのかもしれないとも思った。
私は鬼滅をあきらめた。DVDでも借りよう。(今度、テレビアニメ版の無限列車編がプライムビデオに来るみたいだ)
テレビを見ているときの母は、ずっと険しい顔をしている。あまりにも険しいので、一度その様子を伝えたところ、どうやら目がしょぼしょぼするからそういう表情になってしまうらしい。なんにしても、険しい顔でずっとテレビを見つめている母を見るのは、私的にはちょっと切ない光景だった。だから、そんな母からの散歩の誘いは、切ない光景を見なくて済むという理由もあって、魅力的に感じた。
基本的にずっとテレビを見ている母だけど、案外突然ひとりで散歩に出たりする。母なりに、ずっとテレビに釘づけだった1日を回避したいのかもしれない。
散歩の誘いを魅力的に感じつつも、即答できなかった。本当は家でやりたいことがたくさんあった。けど、どうせ家にいても、ぐったりして、たいしてやりたいこともやれないだろうこともわかっていた。それに、あと何回、母と歩くことができるのだろうかと考えてしまい、2度目の誘いに、私は承諾してしまうのだった。
* * *
道すがら、歩道と車道の境目の縁石の隙間から得体の知れない巨大な植物が育っているのを見つけて、母と二人してそれを凝視した。
「グロいね」と母が言う。
植物が少しかわいそうだと思いつつ、「ね」と返す。
「すごい熱帯のほうのさ……」
「うん、アマゾンとかで生えてそう」
サイズ感、伝わるかな。
そこからしばらく歩いていると、母はさっきの植物の話を再度持ち出した。
「あのグロい植物はなんていうんだろう?」
「写真は撮ったけど調べてないや」
「あのグロい植物」と呼び続けるのも、あのグロい植物に申し訳ない。できるだけ早くあのグロい植物の名前を知りたいところだった。
散歩が終わったら調べることとしよう。
* * *
散歩がてらニトリに行ったら、今年の「重い毛布」が販売されていた。
これ、欲しいんです。
ふわふわでちょっと重めのものに包まれてると、守られてる感じがして落ち着きませんか。それに、ぼくはコーヒーを飲みすぎてカフェインで足がムズムズするから、重いもので足を圧迫してくれるのは睡眠の助けになる。
数年前から気になってはいたけど、毎回いつのまにか販売終了していて、気づいたら桜が咲いている。
そして今回ぼくがニトリで購入したのはこちら
ニトリのバスピロークッション!!
重い毛布じゃないのかよ。だってまだ暑いから、タオルケットでいいよ。
なんでピロークッションを購入したかというと、ここ数年、姿勢が悪いせいか年々尾てい骨が突き出してきて、お風呂で座ってるときに痛いんだ。
このまま尾てい骨が突き出し続けたら、いつかトカゲとかになってしまうのかな。
* * *
街中でふと馴染みのある匂いを感じ、その匂いのものを食べたくなることってありませんか。その現象が起きて、私はマクドナルドが食べたくなった。でも最寄りのマクドナルドはそこから20分と、ちょっと遠かった。だから、母の希望でお寿司屋さんに行った。その店の名は「スシロー」。
スシロゥ!!スシロゥ!!
レーンを挟んだ向こう側に座ってたおばさんがものすごい勢いでマシンガントークを繰り出していて最悪だった。闇のおばあちゃんだった。
でも、スシローで食べた期間限定のかぼちゃブリュレが、これがね、おいしかったからもういいよ。
そのあとはスーパーに行った。2階には雑貨店があって、ぶらぶらしていたらかわいいドリップポットを見つけた。候補に入れつつ。そのスーパーの端っこには小さなコーヒーショップがあって、コーヒーグッズも少し置いてある。そこも見てから決めようと思った。
コーヒーショップにたどり着き、母と一緒にドリップポットを吟味する。
「デザインがいまいちだね」
「うん……てか、うんこ型じゃん」
いやだぁーと笑う母に叩かれる。私もいたずらっぽく笑いながら、叩かれた肩を芝居っぽくさする。
うんこなんて言ってごめんね。メーカーさんも、これ使ってる人も、ごめんね。
そんな感じで、母と散歩をした1日だった。
* * *
あ、忘れるところだった。
あのグロい植物を「GreenSnap」というアプリで調べてみた。
……うーん、これかな。
よろしく、ビロードモウズイカ。
元気がなくてもいいのかもしれない
2021年10月6日(水)
*1 535文字
今日、エレベーターに乗り込んで振り向いたら、同じくエレベーターに乗りそうな雰囲気の老夫婦がいらしたので、開くボタンを押して待っていた。でも、二人の視線や挙動から察するに、ちょうどとなりのエレベーターも到着したみたいだった。夫婦の奥さんのほうが、扉を開けて待っていた私に対して手を挙げて合図した。
その手には、
「待ってくれてありがとう」
「こっちのエレベーターに乗るよ」
「行って大丈夫」
が含まれている気がした。
その合図を受けた私は、相手に伝わるかわからないくらいの小さな頷きを返して、扉を閉めた。
箱の中にぽつんと一人になって、条件反射的に今の出来事を反芻した。
私はずっと、元気がなかった。愛想よく微笑んだりしなかった。
でも、合図してくれた、手を挙げて。
全部自分の妄想かもしれない。そもそも僕が上の階に行くのに対して二人は下の階に行きたかったのかもしれない。合図をくれた奥さんも、内心では「愛想悪い人だな」と思ってたかもしれない。
でも、心の中にろうそくくらいのぬくもりがあった。
「元気がなくてもいいのかもしれない」
エレベーターの中に設置された鏡に映る自分の目を見て、久方ぶりにそう思った。
*1:この記事は1分くらいで読むことができます